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もう自暴自棄とはこのことで、昼間から寿司屋で酒をくらうようになっていました。
パートと家事に追われる妻のことは気にも留めずに。
いまになってみて、ようやく、分かるようになったんですが、とにかく周囲のせいにして甘えていただけなんです。
僕も、Hさんと同様に、オーナーの薫陶を受け、高邁な思想を掲げていたけど、まるで血肉になっていなかったんですよ。
オーナーの哲学は、シンプルで、要するに顧客本位の考え方ですよ。
オーナーに忠誠を誓うんではなく、市場に忠誠を誓えと常々いってました。
Hさんたちは、それに忠実に、お客さんにとって魅力ある価格破壊を実現するため、まず、自分たちの家計からリストラしていった。
年収を前職の約半分、四八〇万円に設定し、それに応じて生活レベルを下げる。
クルマを売って、移動手段をバイクやバスにする。
子どもの学校を私立から公立に変える。
昼は弁当を持参する。
ときには無収入でも働く。
僕には、とても、そこまでの発想も覚悟もなかった。
要するにね、金は後づけで、どこの時点で、顧客中心の考え方に切り換えられるかということなんですよ。
いまは大体、金儲けが先に立ちますからね。
「生活を維持するために、金を稼ぐ」「組織を維持するために利益をあげる」。
そういう考え方から脱却すること。
それは、オヤジが教えてくれた顧客本位の哲学そのものだと思います。
たとえば、税引き前の利益が10億円あったなら、そのうちの五億円を全社員で分配して、残りの五億円を、値下げの原資にし、利益は会社に残さないようにしようというのが、当社Tの考え方です。
「経営分配制度」と呼んでいます。
経営者への過剰な報酬や、厚すぎる内部留保に相当する部分を値下げの原資にすれば、競合他社に負けない低価格を設定することができますよね。
普通の会社ではそんなことはできないでしょうが、僕らは1から立ちあげたから、それができた。
いや、できたというより、「ヒト、モノ、カネ」のないないづくしで、そうせざるを得なかったというのが、正直なところです。
僕らは、「吾唯知足」をTの経営理念にしました。
これは、「欲を少なくし、不足を嘆かなければ幸福である」という意味ですが、われわれは、その理念にもとづいて、社長を含め全メンバーの年収に、二三二万円という上限を設けました。
これは、配偶者特別控除が受けられる上限の年収なので、当社では、国が「それがサラリーマンの年収の上限ですよ」と見なしていると解釈したんです。
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